神戸地方裁判所 昭和36年(行)8号 判決 1963年1月16日
原告 株式会社まからずや洋品店
被告 神戸税務署長
訴訟代理人 松原直幹 外二名
主文
原告の請求を全部棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
原告訴訟代理人両名は、「被告が昭和三五年四月三〇日付をもつて原告に対してなした原告の自昭和三一年七月一日至昭和三二年六月三〇日事業年度分法人税等に関する二個の再更正処分(一個は発信番号 法(通)第五六一号、一個は同じく法(通)第五六二号)はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、
被告指定代理人等は、「被告が昭和三五年四月三〇日付をもつて原告に対してなした原告の自昭和三一年七月一日至昭和三二年六月三〇日事業年度分法人税に関する二個の再更正処分中、発信番号 法(通)第五六一号の更正処分の取消を求める部分はこれを却下する。同発信番号 法(通)第五六二号の更正処分の取消を求める部分はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、原告の請求原因
一、原告は洋品販売を業とする会社である。
二、原告はその自昭和三一年七月一日至昭和三二年六月三〇日事業年度分の法人税確定申告を昭和三二年八月三〇日別表第一記載の如く被告に対してなした。
三、被告は右原告の確定申告に関して昭和三三年三月三一日別表第二記載の如き更正処分をした。
四、原告は右更正処分について大阪国税局長の審査決定を経て、昭和三四年七月六日神戸地方裁判所に、更正処分に更正の理由の附記がないこと、更正されるべきなんらの理由もないことを主張して更正処分取消請求の訴訟を提起した(昭和三四年(行)第二二号事件)。
五、右訴訟の係属中である昭和三五年四月三〇日被告は別表第三記載の如き再更正処分を二個なした。そして、右二個の処分の通知書は一個の封筒に同封され同時に原告方に到達した。
六、被告は右二個の再更正処分によつて第三項記載の更正処分は取消されたと主張し、同裁判所もまたこの主張を容れ、原告の前記訴訟について請求を棄却した(右訴訟は現在大阪高等裁判所に係属している。)。
七、以上の経過の如く現在被告の昭和三五年四月三〇日付再更正処分は二個ながら存在する。原告はこれら二個の再更正処分は無効のものとして前記訴訟で争つているが、仮りに有効に存在するならば次のとおり違法であるから取消さるべきである。
(一) これら再更正処分は法人税法第三一条に基く再更正として行われた。右法条によれば再更正は「更正処分の課税標準又は法人税額」について過不足額があつたとき許されるのに、右取消を求める再更正処分は「申告書の課税標準ないし法人税額」について行つている。したがつて、これら再更正処分は法人税法第三一条に違反する。
(二) これら再更正処分は各更正の理由を附記しているが、これら附記された事実は全然存在しない。したがつて、これら再更正処分は虚無の事実に基くもので違法である。
八、なお、原告は本訴を提起するに当り、これら再更正処分について、法人税法所定の適法な不服申立手続を経由した。
第三、被告の答弁
一、原告主張の請求原因事実中第一項ないし第五項記載の事実は認める。同第六項の事実も認める。但し、別表第二記載の更正処分は、別表第三記載の五六一号による被告の再更正処分によつて取消されたものである。同第七項の事実中、(一)原告が、被告の行つた昭和三五年四月三〇日付再更正処分を無効なものとして、昭和三三年三月三一日付の被告の行つた更正処分について現在審理中の大阪高等裁判所(ネ)第四六二号事件で争つていること、(二)右再更正処分が法人税法第三一条に基いて行われたこと、右再更正処分には更正の理由が附記されていることは認めるが、その余は争う。但し、更正の理由として附記された事実は全然存しないということは否認する。同第八項の事実は認める。
二、被告の主張
(一) 被告は、原告会社が被告に対して昭和三二年八月三〇日提出した本件事業年度分の所得金額が金一、〇六六、七〇〇円である旨の確定申告に対し、その所得金額は金二、四二三、一〇〇円であるとして、昭和三三年三月三一日付をもつて法人税法第二九条第一項により更正処分(以下第一次更正処分という)をなした。右更正の理由は、原告会社がその代表取締役訴外植村忠三に譲渡した神戸市兵庫区水木通一丁目三五番地上の建物の譲渡価額が右建物の時価に比して、著しく低廉であつたので、譲渡価額と時価との差額は、原告会社から右訴外人に対し無償で価値の移転がなされたものと被告は認定し、右認定した差額は法人税法上寄附金として取扱い、同法第九条第三項の規定により、寄附金として損金に算入される限度額を超過する金額を損金不算入額として原告会社の申告所得金額に加算したというのであり、その詳細は次のとおりである。
(1) 原告会社は、昭和二五年三月頃、神戸市兵庫区水木通一丁目三五番地(宅地一四坪五合)地上所在木造瓦葺二階建店舗一棟建坪一二坪六合二階坪一二坪六合(以下本件建物と略称する)を金五二七、〇〇〇円で取得し、その後減価償却を重ねて、昭和三一年七月一日、当時の原告会社の帳簿価格金四三五、一七〇円で原告会社代表取締役植村忠三に譲渡した(なお、植村忠三は建物の譲渡を受けると直ちにこれを取り壊し、同地上に現在の建物を新築して、同年一〇月一日、右新家屋を原告会社に賃料一カ月金八万円で賃貸し、敷金として金二〇万円を受取つている。)。
(2) しかし、右譲渡価格は時価に比較して、著しく低いものである。すなわち、建物自体は一坪あたり金一万円程度のバラツク建であり、金一二六、〇〇〇円程度の時価を有するに過ぎないが、その敷地は神戸市内でも有数の商店街である新開地の角地であつて、一坪あたり金一七八、二〇〇円の時価を有し、従つて、右建物に附随する敷地一四坪五合の借地権は、土地の価格の七割に相当する金一、八〇八、七三〇円の時価を有するものというべきであるから、右建物の譲渡価格の時価は、右建物の時価金一二六、〇〇〇円と借地権の時価金一、八〇八、七三〇円の合計額金一、九三四、七三〇円ということになる。しかしながら、本件の場合、譲受人は本件建物を譲受後直ちに取り壊しているところから、はじめから取り壊す意思で譲り受けたものとみることができるので、建物自体の価格は零として取引がなされたものとして、借地権の価格金一、八〇八、七三〇円を本件建物の譲渡価格の時価とするのが合理的である。
(3) 従つて、右譲渡価格の時価金一、八〇八、七三〇円と現実の譲渡価格の差額金一、三七三、五六〇円は、原告会社から右植村忠三に対して無償で価値の移転がなされたものというべく、法人税法の上では、一種の寄附金として取扱われるべきこととなる(昭和二五年九月二五日付直法一の一〇〇国税庁長官通達((法人税取扱基本通達))第七七号「法人が有する資産を著しく低い価額で譲渡した場合には、当該譲渡価額とそのときにおける当該資産の価額との差額に相当する金額を相手方に贈与したものと認められるときは、当該差額に相当する金額は、これを寄附金として取扱うものとする。」)。
(4) 寄附金については、法人税法第九条第三項により、寄附金のうち命令の定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は所得の計算上損金に算入しないと規定されており、右寄附金の損金不算入額については法人税法施行規則第七条に規定がある。右規定によれば、その計算方法の概要は、当該事業年度において支出した寄附金の合計額が、当該事業年度の資本金額に千分の二、五を、所得金額に百分の二、五を各々乗じて算出した金額の合計金額の二分の一に相当する金額をこえる場合における、その超過額が損金不算入額とされており、右の方法によつて別表第四記載のとおり寄附金の損金算入限度額を算定した結果、原告会社の本件事業年度の所得金額は被告の第三次更正処分のとおり金二、四二三、一〇〇円となつたわけである。
(二) 原告会社は、右第一次更正処分に対して不服があるとして昭和三四年七月六日神戸地方裁判所に第一次更正処分の取消を求める訴訟を提起したのであるところ、右訴訟の係属中である昭和三五年四月三〇日、被告は右第一次更正処分について、実質上はなんら違法の点はないが不備な点があつたので、すなわち、右第一次更正処分の課税標準金二、四二三、一〇〇円を金一、〇六六、七二〇円に減額するため、法人税法第三一条第一項の規定により再更正処分(以下第二次更正処分という)をなし、右再更正処分は通知書番号第五六一号をもつて原告会社に通知され、第一次更正処分は取消された。
そして、右第二次更正処分の結果、原告会社の課税標準は確定申告額と同一金額になつたのであつて、右第二次更正処分は原告会社にとつて、なんら不利益な行政処分ではなく、原告会社が右第二次更正処分の取消を求める本訴請求部分は訴の利益を欠き、不適法として却下されるべきである。
(三) 被告は、右第二次更正処分と同日付をもつて、さきに第一次更正処分をしたのと同様の理由で、あらためて再々更正処分(以下第三次更正処分という)をし、通知書番号第五六二号をもつて原告会社にその旨通知した。
(四) 尚、原告会社は右第二次及び第三次更正処分に対して再調査請求を経て審査請求書を大阪国税局長に提出したのであるが、右第二次更正処分は第一次更正処分を取消すことを意味する更正処分であり、したがつて原告会社にとつては不利益な処分ではないとして、同国税務局長は右審査請求を棄却し、また第三次更正処分については法人税法上なんら違法の点は認められないとして原告会社の審査請求を棄却した。
第四、被告の主張に対する原告の答弁
一、被告主張の家屋の低廉譲渡の事実は否認する。但し、原告会社は被告主張の本件建物を昭和三一年七月一日訴外植村忠三に譲渡したことはあるが、その実情は次のとおりである。
(一) 原告会社は本件建物が考朽化したので取り壊すこととした。従つて、原告会社は右建物を、取り壊すことを条件として右訴外植村に建物そのものの時価金四三五、一七〇円で売却したのであつて、その敷地である被告主張の宅地一四坪五合の賃借権の譲渡ないし転貸はしていない。
(二) すなわち、原告会社は右建物の敷地を訴外辻一平外二名(共有土地)から賃借していたところ、右賃貸借契約においては賃借権の譲渡・転貸は禁止されていた。それ故、原告会社は地上建物の取り壊しに伴い、建物が朽廃したとして、前記土地賃貸借契約を前記地主との間で合意解約したのである。
二、財産権として建物所有権と借地権とは全く別個の権利として区分されており、税法上もまた別個の権利として区分計算されている。従つて、借地権が対価なく移動しているという被告の主張よりすれば、借地権の無償譲渡自体につき税法上の処置をすべきであつて、借地権の価格を建物の価格に算入の上、借地権の価格即ち建物の価格として税法上の措置をとることは明白に違法であるといわねばならない。
三、被告は本件更正の根拠として「国税庁長官基本通達第七七号」を掲げている。また本件に関する税法上の根拠は法人税法第九条第三項である。
通達はそれ自体で法律と同視される効果を有するものでなく、通達は法を実施するものの正しい解釈として存在するだけのものである。法人税法第九条第三項は一定限度以上の「寄附金」を損金に算入しないことを定め、右通達はある場合に寄附金として処理されていないものを「寄附金として取扱う」ことを内容としている。従つて、右通達は法人税法第九条第三項の寄附金を不当に拡大解釈して、実際は寄附金でない場合でも寄附金とみなすことを定めているのである。租税法律主義の日本国憲法下にあつては税法を不当に拡大解釈をはかる通達は税法の正しい解釈として存在し得ないのであつて、右通達のみを根拠として本件更正の理由とは決してなし得ないものである。
四、右通達が仮りに税法の解釈として正しいとしても、右通達の内容は(イ)譲渡価額が著しく低いこと、(ロ)差額に相当する金額を相手方に贈与したものと認められることの二条件を満たすとき、差額を寄附金として取扱うことを定めているところ、本件の場合、原告会社にも訴外植村忠三にも贈与意思や受贈意思は全然存在しない。
第五、証拠<省略>
理由
第一、当事者間に争のない事実
一、原告は洋品販売を業とする会社であるところ、その自昭和三一年七月一日至同三二年六月三〇日事業年度分の法人税確定申告を被告に対し同三二年八月三〇日別表第一記載の如く行つた。
二、被告は右確定申告に関して、同三三年三月三一日別表第二記載の如き第一次更正処分をした。
三、原告は右更正処分について大阪国税局長の審査決定を経て、同三四年七月六日神戸地方裁判所に、更正処分に更正の理由の附記なきこと、更正されるべきなんらの理由なきことを主張して、更正処分取消請求の訴訟を提起した。
四、右訴訟の係属中である同三五年四月三〇日被告は別表第三記載の如き再更正処分(第二次、第三次更正処分)を二個なし、右二個の処分の通知書は一個の封筒に同封され同時に原告に到達した。
五、被告は右二個の再更正処分によつて、前記第一次更正処分は取消されたと主張し、同裁判所もまたこの主張を容れ、原告の前記訴訟における請求を棄却した。
六、原告は、被告の行つた昭和三五年四月三〇日付再更正処分を無効なものとして、前記第一次更正処分について現在審理中の大阪高等裁判所(ネ)第四六二号事件で争つている。
七、右各更正処分は法人税法第三一条に基いて行われた。
八、原告は、本訴を提起するに当り、右各再更正処分について、法人税法所定の適法な不服申立手続を経由した。
第二、よつて、争のある以下の点につき判断する。
一、本件第二次、第三次再更正処分が法人税法第三一条に違反するとの主張について。
成立に争いない甲第二、三号証によれば、被告は本件第二次第三次更正処分を原告に通知するに際し、法人税等の更正決定通知書と題し、「自昭和三一年七月一日至昭和三二年六月三〇日事業年度の確定申告書の所得金額、法人税額を下記のとおり更正しましたから通知します。」との記載のある書面(甲第二、三号証)を原告に送達したことが認められるが、右事実のみをもつては未だ原告の右主張を認めるに足らないというべきところ、被告が原告に対し、原告主張の日時に原告主張のとおりの第一次更正処分をしたことは当事者間に争なく、成立に争いない甲第一ないし第三号証、乙第二号証の一、並びに証人柴村晋の証言によれば、原告の確定申告に対し被告が右第一次更正処分をした理由は、原告会社がその代表者である訴外植村忠三に対し、原告会社所有にかかる神戸市兵庫区水木通一丁目三五番地所在の前記本件建物を、昭和三一年七月一日時価に比べて著しく低廉な価額で譲渡し、右譲渡価額と時価との差額は原告会社が右植村忠三に贈与したものと認められ、よつて、右差額は法人税法第九条第三項の寄附金にあたるものと認めたからであるが、その後の調査によれば右第一次更正処分の更正決定通知書に記載されている理由の附記がやや不十分であり、かつ、理由欄の金額が誤記されているなど形式的な不備があつたので、被告は原告主張の日時に原告主張の本件第二次更正処分により所得金額、法人税額を原告の確定申告書に記載された額と同一額にいつたん減額したうえ、原告主張の日時に右第一次更正処分をしたのと同一の理由で原告主張の本件第三次更正処分をしたことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
そうすると、第二次更正は第一次更正を、第三次更正は第二次更正を、それぞれ再更正したものと認められるから、「本件第二次、第三次再更正処分は申告書の課税標準ないし法人税額について行なわれているから法人税法第三一条に違反し、取消さるべきである。」との原告の主張は理由がないから、これを採用しない。
二、右認定によると、第二次更正処分は原告の確定申告額と同一額に減額したもので、原告に不利な処分でないから、原告はその取消を求める利益がなく、この部分の取消請求は棄却を免れない。(昭和三〇年四月二八日最高裁判所判決、民集六〇三頁及び昭和二七年二月一五日最高裁判所判決、民集八八頁は訴の利益なき場合に請求を棄却している)
三、原告から訴外植村忠三に対する本件建物の低廉譲渡の事実の有無並びにその法人税法上の取扱い(昭和二五年九月二五日付直法一の一〇〇国税庁長官通達(法人税取扱基本通達)第七七号)について。
(一) 原告会社がその代表者である訴外植村忠三に対し、昭和三一年七月一日原告会社所有にかかる本件建物、神戸市兵庫区水木通一丁目三五番地(宅地一四坪五合)地上木造瓦葺二階建店舖一棟建坪一二坪六合、二階坪一二坪六合を金四三五、一七〇円で譲渡したことは当事者間に争いないところ、右譲渡価額が時価に比べて著しく低廉であるかどうか検討してみよう。
成立に争いない甲第五、六号証、証人稲垣弘一、同山田治、同渡辺辰治郎、同柴村晋、同松本重作(一部)、同田中勇示の各証言、鑑定人山本凱信の鑑定の結果、原告代表者尋問の結果(一部)並びに弁論の全趣旨を綜合すれば次のとおりの事実が認められる。
原告会社は昭和三一年七月頃、その所有にかかる本件建物が老朽化し使用に耐えなくなつたため、その改築を思いたつた際、もともと原告会社は個人営業から発展した会社で、当時も同族会社同様と目される状態にあつたが、経営規模が拡大するにつれ、他人資本が入り、将来は他人に支配されることも予想されたので、これを慮つて、右建物及びその敷地の借地権の名義を原告会社代表者代表取締役社長である前記植村忠三に移転することとし、同年七月一日同人に対し、本件建物を昭和二四、五年頃買入れた価額に減価償却を重ねた帳簿上の価額金四三五、一七〇円で売渡し、同人は右建物を右改築を請負つた訴外東洋工業株式会社に三、四十万円で下取りさせ、右訴外会社は同年八月七日頃、右建物を取り壊し、その後に右植村所有の現在の二階建店舖(但し坪数は旧建物より少し増加)を建築し、右植村はこれを原告会社に賃料一カ月金八万円で賃貸し、その敷地(神戸市兵庫区水木通一丁目三五番の一及び三五番の七のうち二〇坪四合四勺)の賃借権も原告会社から右植村に譲渡され、(但し右賃借権の移転の対価は支払われていない。)新らたに右敷地の所有者である訴外松本康夫、同馬島直英、同辻ますとの間に右植村忠三個人を賃借人とする土地賃貸借契約公正証書(甲第六号証)が作成されており、特に同公正証書の第一六条には植村忠三が右敷地賃借権を譲り受けた旨明記されていること及び右地主等は植村忠三個人に右土地を賃貸するにつき権利金等の対価を受取つていないことが認められる。そして、以上認定事実よりすれば、すなわち、右植村は建物自体については原告から買入れた価額とほぼ同額で前記東洋工業に下取りさせたのであるから、建物自体の譲渡によつては、さして利益を受けたことにはならないのに反し、旧建物を取り壊して、その敷地跡に新建物を建築し所有するにいたつたこと、すなわち、旧建物の敷地を利用し得るにいたつたことにより、後に判示するとおり莫大な利益を得るにいたつたのであり、本件建物の譲渡及びその敷地の借地人名義変更の目的も実にこの点にあつたことが認められるのであるから、右建物の敷地(但し、新らたに賃借したのは同番地の一宅地二〇坪三合五勺)の賃借権も本件建物に付随して譲渡されたものとみるのが相当であり、右認定に反する証人松本重作の供述並びに原告代表者の供述はにわかに措信し難く他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
そして、成立に争いない乙第一号証の一、二、同第三号証の一、二、証人渡辺辰治郎、同柴村晋の各証言並びに鑑定人山本凱信の鑑定の結果を綜合すれば、本件建物の昭和三一年七月当時の時価としては、建物自体の価額金三六四、七四〇円と、建物の最小必要敷地を一五坪八合として計算した借地権の価額金二、二一七、五六一円との合計額金二、五八二、三〇一円が相当であるというべきところ、少くとも、被告が本訴において主張する金一、八〇八、七三〇円を下廻らないことが認められ甲第四号証(成立に争ない)もいまだ右認定を覆えすに足りず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
なお、原告は「借地権は建物所有権とは別個の権利であるから、本件においても借地権の無償譲渡自体について税法上の措置をとるべきである。」と主張するが、前段認定の事実から考えるならば、原告の右主張は独自の見解というべく、採用できない。被告が本件建物の時価をその主張する借地権の価額と同一額の金一、八〇八、七三〇円としたのは、前認定のとおり、前記植村が建物自体の譲渡によつては、さして利益を受けていないことから、単に計数上、建物自体の価額を零として建物の時価を算出したに過ぎず、このことは前顕各証拠により明らかである。
そして、右認定の時価に比較すると、前認定の本件建物の譲渡価額は著るしく低廉というべきで、少くとも、被告の主張する差額金一、三七三、五六〇円は、前記認定事実に証人山田治の証言を綜合して考えると、原告会社から右植村に対し贈与の意思で価値の移転が行われ、右植村もこれを受贈の意思でもつて取得したものであることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
次に、被告は前認定の譲渡価額と時価との差額金一、三七三、五六〇円は昭和二五年九月二五日付直法一の一〇〇国税庁長官通達(法人税取扱基本通達)第七七号により寄附金として取扱うべきものと主張し、原告は右通達は法人税法第九条第三項の不当な拡大解釈であり、租税法律主義に反し違法である旨主張するから判断するに、法人税法第九条第三項にいう「寄附金」とは、法人が相手方に対し、直接法人の事業と関係なく、かつ、対価の授受なく無償で贈与した金銭その外の財産的給付をいい、法人がその所有する財産を著しく低い価額で譲渡した場合で、かつ、時価との差額を相手方に贈与するためにこれを行つたものと認められる場合、その差額を本条にいう「寄附金」として取扱うことは、本条を不当に拡大解釈したものということはできない。(但し、低廉譲渡の場合、その差額を常に寄附金として取扱うことの当否は別問題で、相手方が法人の役員である場合、事情によつては役員賞与として、利益金の処分と解し、寄附金においてとられるが如き損金処理を認めないのが相当である場合も考えられる。)
そして、成立に争ない甲第三号証、乙第一号証の一、二、同第二号証の一ないし三、同第三号証の一、二、証人渡辺辰治郎の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告は前段認定の本件低廉譲渡の差額金一、三七三、五六〇円を寄附金と認め、その他の事項は原告の確定申告書の金額により法人税法施行規則第七条に従い、別表第四記載のとおりの計算方法により金二、四二三、一五八円を原告会社の所得金額とし、これと申告額金一、〇六六、七六七円との差額金一、三五六、三九一円を増額更正するため本件第三次更正処分をしたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
そうすると、被告のした本件第三次更正処分には、なんら違法はない。
よつて、原告の本訴請求は理由がなく、棄却すべきものであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 森本正 畑郁夫 杉谷義文)
別表第一、第二、第三
第一
第二
第三
五六一号
五六二号
所得金額
一、〇六六、七六七
二、四二三、一〇〇
一、〇六六、七〇〇
二、四二三、一〇〇
法人税額
三七五、五四〇
九一八、一〇〇
三七五、五四〇
九一八、一〇〇
納付の確定した基本税額
三七五、五四〇
九一八、一〇〇
三七五、五四〇
更正法人税額
五四二、五六〇
△五四二、五六〇
五四二、五六〇
過少申告加算税額
二七、一〇〇
△二七、一〇〇
二七、一〇〇
更正決定により納付すべき税額
五六九、六六〇
△五六九、六六〇
五六九、六六〇
別表第四
摘要
原告計算額
被告計算額
更正差額
寄
附
金
の
損
金
不
算
入
額
限度計算の対象所得額<イ>
九八三、三〇二円
九八三、三〇二円
〇円
損金計上の寄附金<ロ>
一三〇、〇〇〇
一、五〇三、五六〇
一、三七三、五六〇
寄附金支出前所得額
一、一一三、三〇二
二、四八六、八六二
一、三七三、五六〇
右の2.5/100相当額<ハ>
二七、八三二
六二、一七一
三四、三三九
資本金額
三、〇〇〇、〇〇〇
三、〇〇〇、〇〇〇
〇
右の2.5/1,000相当額<ニ>
七、五〇〇
七、五〇〇
〇
<ハ>+<ニ>×1/2相当額<ホ>
一七、六六六
三四、八三五
一七、一六九
指定寄附金額<ヘ>
三〇、〇〇〇
三〇、〇〇〇
〇
差引損金不算入額<ト>
<ロ>―<ヘ>―<ホ>
八二、三三四
一、四三八、七二五
一、三五六、三九一
所
得
金
額
の
計
算
<イ>所得仮計
九八三、三〇二
九八三、三〇二
〇
<ト>寄附金の損金不算入額
八二、三三四
一、四三八、七二五
一、三五六、三九一
法人税額から控除される所得税
一、一三一
一、一三一
〇
差引所得金額
一、〇六六、七六七
二、四二三、一五八
一、三五六、三九一